「しょうゆ」、ひらがなで書くか? 漢字で書くか? 表記の話

こんにちは、はてな編集部の谷口です。このブログは、はてなで働く編集者が1本ずつ順番に記事を書いているのですが、私が前回記事を公開したのは約1年前。社会人になってからの1年って恐ろしく早いですね……。

さて今回、私がこの記事で取り上げるのは「表記」の話。ひょうき。編集者やライターをはじめ、文章を書いたりまとめたりする人にとって避けては通れない話題だと思いますが、それ以外の方は、あまり気にされたことがないかもしれません。

でも「表記」って「読みやすい文章」には欠かせない要素なんです。

どんな場面においても、読みやすい文章は「正義」

例えば。

わたしがへやをのぞいたとき、なぜだかわからないが、かのじょはふたつのたまねぎにしょうがじょうゆをかけてたべていた。

こういう一文があったとき、あなたは、どの語句を「漢字」にして、どの語句を「ひらがな」や「カタカナ」「数字」にしますか?

私が部屋を覗いた時、何故だか分からないが、彼女は二つのタマネギに生姜醤油を掛けて食べていた。

と書く方もいれば、

私が部屋をのぞいたとき、なぜだかわからないが、彼女は2つの玉ねぎにショウガ醤油をかけて食べていた。

と書く方もいると思います。

でも、「覗」という漢字、認識しづらくないですか*1? 「なぜだかわからないが」のところ、ひらがなが連続していて読みづらくないですか? 「生姜醤油」は漢字が続く一方で「ショウガ醤油」は文字のバランスがあべこべな気がしませんか?

……と、文章一つとっても、語句を「漢字」「ひらがな」「カタカナ」(そして英数字)のどれで表記するかは、読みやすさに直結します。

自分以外の誰かに読んでほしい文章を書くとき、読みやすさは正義です。読みやすい文章は、書き手の意図や考えを誤解なく伝えるだけでなく、洗練された印象を与えることができ、読み手のストレスも軽減できます。

そして「文章を書く」ということは、勉強でも、仕事でも、プライベートでも、なかなか避けては通れない行為です。私たちのような編集者でなくとも、それは同じだと思います。

メールを書いて、送信ボタンを押す前。日本語の意味や漢字の変換、句読点の位置が適切であるかどうかをチェックするときに、あわせて「この表記で、読みやすいかな?」と立ち止まってみると、もっと読みやすい文章になるはずです。

言葉で伝えるために、表記を統一する

「文章のクオリティーをもっと上げたい!」という場合は、語句の表記を見直すだけでなく、表記統一を意識してみるのはどうでしょうか。表記統一とは、読んで字のごとく「表記を統一」することです。

元々」と「もともと」。「気付く」と「気づく」。「是非」と「ぜひ」。

語句ごとに漢字にするか、ひらがなにするかが統一されていると、文章全体にまとまりが生まれます。逆に表記がバラバラだと、読みづらかったり、雑な印象を与えてしまいます。書き手自身の価値を損なってしまうことにもつながりかねません。

統一する範囲は、媒体単位、サイト単位、記事単位……いろんな考え方があると思うので、省略。はてなでやっている編集のお仕事では、記事単位で統一するケースが多いです(媒体で統一することもあります)。

とはいえ、文章を生業にしていたり、文章を扱う仕事をしている人以外には「必ずしも必要」なことではないと思います。私も、例えば後輩や同僚から「なんで表記統一が必要なんですか?」と真正面から質問されると、「そういう世界だから……」としか答えようがない気がします。

私たちの仕事は、言葉を大切にし、言葉で伝えていくことなので、少しでも「こちらのほうが読みやすそう」「こちらのほうが伝わりやすそう」ということを選んでいく必要があり、その方法の一つが「表記統一」なのかなと、何となく思っていたりします。

この世界には「用語集」というものがある

というわけで私たちは「そういう世界」にいるため、表記に迷ったときの拠り所を決めていたりします。

それがこちら。

毎日新聞、朝日新聞、読売新聞など、それぞれの新聞社による「自社の表記ルール」をまとめた用語集で、新聞社以外でも多くのメディアが使用しています。ちなみに、はてなでは共同通信社の「記者ハンドブック 新聞用字用語集」を利用しています。基本的にはこちらに掲載されている表記にのっとり記事を編集しています。

なぜ共同通信社のものを使っているのか……に関しては、はてなに本格的な編集部署ができたときに、「用語集を使いましょう」と決めた人が愛用していたから、です。中途採用で入社した編集者には「毎日新聞のものを使っていました」という人もいます。

表記に迷ったときは、辞書のようにこの用語集を開いています。文章の基本的な書き方やルール、カタカナ表記についてもまとまっており、とっても便利。じっくり読むと、なかなかの時間泥棒です。

ただ、はてなではブロガーさんに寄稿してもらうことも多いため、書き手のこだわりや文章の雰囲気に合わせて柔軟に表記を変えることもしばしば*2。「柔らかい」記事はひらがなを多用しますし、「堅い記事」はやはり漢字にすることが多いです。「はてなニュース」などの自社媒体では、ほぼ用語集に準拠しています。

はてな編集者のおこだわり〜「開く」「閉じる」編〜

ここから先は、表記に一家言ある人向けとなりますが、語句をひらがなで表記することを「開く」、漢字で表記することを「閉じる」と言います。

軽い気持ちで、はてなで働く編集者たちに「表記の開く、閉じるにこだわり、何かありますか?」と聞いたところ、それぞれの“おこだわり”が炸裂しましたので、以下に一部を紹介したいと思います。

  • こと/事
    • 記者ハンドブックには「具体的な事柄に関しては閉じる」とありますが、僕個人としては、常に開きたい。フルオープンでいきたい。なぜなら、「こ」と「と」の曲線基調の字面がかわいいから。一方、重ための原稿ではそのキュートな字面が仇となる……。原稿でも登場頻度が非常に高い言葉なので、毎度悶絶します。
      • 30代男性編集者
  • しょうが醤油
    • 記者ハンドブックにそのまま合わせると「しょうが」+「しょうゆ」で「しょうがじょうゆ」になるが、ひらがな続きで読みにくい上に、一見何か分からなくてイマイチ。「生姜醤油」はちょっと漢字すぎるので「しょうが醤油」がほど良さそう。だし醤油、わさび醤油なども同様。
      • 30代女性編集者
  • 惹かれる
    • 表外音訓のため「引く/引かれる」になってしまうのですが、「素敵な人に引かれる」だと引っ張り回されている感じになりませんか……?
      • 40代女性編集者
  • 玉葱 /タマネギ/玉ねぎ(ネギ)
    • ハンドブックでは「タマネギ」ですが(市況・料理記事では「玉ネギ」も使うとあります)、全てカタカナはできるだけ避けたい。「タマネギ」だと玉っぽさが足りない。「玉ネギ」でもなく「玉ねぎ」表記が一番好き。
      • 20代女性編集者
    • 記者ハンドブックでは開くとあるが、漢字のほうが巧妙さが感じられる。
      • 30代男性編集者
  • のぞく
    • 「除く」は閉じるなのに「覗く」は開く指定。常用外漢字とはいえ、アイデンティティーの崩壊。わたしが「覗く」だったら待遇の差に泣きそう。
      • 30代女性編集者


……はい。「そういう世界」にいる私たちには、人から「そんなことにこだわる必要、ある……?」と思われるに違いない、「表記のこだわり」があるのです……。

ここまでこだわる必要はありませんが、次に文章を書くとき、表記も意識してみてはどうでしょうか。きっと、読みやすさが変わると思います。


はてなでは、用語集を片手にこの記事の表記をチェックしてくれる編集者を募集しております。

*1:ちなみに、「覗」は常用外漢字です

*2:記者ハンドブックにも「社外執筆者の署名原稿については(中略)筆者が強く希望する場合は例外的表記を認める」とあります