編成と編集の違い、リトルプレスとブログの共通点 編集者のためのイベント「編む庭」レポ【後編】

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前回に続き、編集者のためのイベント「編む庭 -冬-」の様子をお届けします。後編となる今回は、内沼晋太郎さん(numabooks代表/本屋B&B共同経営者/DOTPLACE編集長)と、伊藤博典(株式会社はてな チーフエディター)による「対談 その2」をレポートします。

ブックコーディネーターとして活動している内沼さんは、クリエイティブチーム「numabooks」の代表を務めながら、下北沢で書店・イベントスペースの「本屋 B&B」を経営。メディアのプロデュースやコンサルティングなども行っています。伊藤は、はてなブックマークの編集をする傍ら、個人でリトルプレスの制作を行っています。イベントでは「はてなブックマーク」というメディアの特徴や、リトルプレスとブログの類似点、編成と編集の違いについて話しました。

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はてなブックマークは「特殊なメディア」

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内沼 はてなブックマークはどういうメディアなんでしょうか。

伊藤 僕がはてなに入ったとき、「個人の思いや考えが書かれた文章が、全く知らない誰かに伝わる。それがインターネットの本質的にいいところ」という哲学が、全社に浸透しているなと思いました。はてなブックマークで上がってくる記事も即時性の高いものよりも、ストレートニュースを咀嚼(そしゃく)したものが多いように思います。つまりは、あるニュースに対して個人の見解を交えたものですね。僕はそこが特殊なメディアだと捉えています。

内沼 僕も毎日はてなブックマークを見ていますが、そういったエントリーをよく見かける気がします。はてなブックマークの「編集」は、具体的にどんなことをされているのですか?

伊藤 はてなブックマークは自動でメディア面が出来上がるので、基本的には編集を介さなくてもいいものです。しかし中には「見せ方や切り口を変えたほうがいいんじゃないか」というものもあります。それについては、エンジニアやサポートの人など、違う職種の人も交えてSlack(チャットツール)やグループウェアなどで意見を出しあって試行錯誤しています。

内沼 明確な何かしらの基準があるわけでもなく、トップダウンの編集長がいて、その人の思想のもとで作っていくわけでもないと。オンラインでずっと編集会議をしている感じでしょうか。

伊藤 そうですね。ただ、現在はてなではオウンドメディアの運営にも携わっていて、そこでの目的は「企業のブランドを作ること」です。となると、どんなコンテンツをどのように見せていくか、それを決める編集長が必要になります。その編集長にどういう権限を与えるべきか、試行錯誤しながら考えているところです。

リトルプレスとブログは似ている

内沼 伊藤さんは個人でリトルプレスも作っていますが、はてなでの編集業と比べてどうですか?

伊藤 すごく極端なことをしていると思っています。はてなブックマークは自動で回るのが理想。要は自分が関わらなくてもいい状態がベスト、というメディアです。一方でリトルプレスは、全部自分の好きなようにやりますし、自分が作らなかったらそもそも世の中にないものです。

リトルプレスなど個人的な文章や同人誌は、各人がどんどん作って、内沼くんがやっている「B&B」のようなプラットフォームで売っていく。パブリックなメディア面は自動で良質なものを作って、できれば人間のコストを下げていく。こういうバランスのとり方をする人は少ないかもしれませんが、僕はそれが落ち着きます。

内沼 その点で考えると、ブログをいくつも持っている人は近い感覚を持っていそうですね。片方のブログではニュースぽいことをやって、もう片方のブログでは日記的な内容を書く。それは、その人にとってバランスをとっているのかもしれません。では、伊藤さんにとってブログとリトルプレスは似ていますか?

伊藤 そうですね。個人の日記のようなブログを尊重する面と、リトルプレスを置いてくれる本屋さんがいる状況は同じだと思います。

内沼 「B&B」は、トーハンという大きな取次を通じて扱える新刊をメインに取りそろえている書店です。ですが、個性的なこともやっていこうと、直接の取引でリトルプレスも増やしていっているところです。個人的なところを愛して、なおかつ、それがプラットフォームになっている―― そういう点で「B&B」とはてなは似ているかもしれませんね。

伊藤 リトルプレスは最近どうなんですか? 波としては、ひと段落したのでしょうか。

内沼 うーん……。してないんじゃないですかね。個人にとって、インターネットでの発信のハードルはもちろん下がっていますが、一方、印刷物を作るハードルも同じくまだ下がり続けていると思います。「B&B」のオープン当初から変わらず、コンスタントに申し込みがある状態です。人が紙のものを作りたくなる気持ちは、そんなに変わらないのかもしれませんね。

伊藤 あと、「B&B」といえば毎日イベントをされていますよね。はてなの編集としては今回が初めてのイベントだったんですが、これを毎日するってすごいと思います。

内沼 「B&B」にとってイベントは、本屋という「場」のメディア性を生かして、毎日編集しているオリジナルの本のような商品です。最初から毎日やることを前提に、人も空間も考えていますから、それほど難しくないですよ。

最近、オウンドメディアを運営してブランドを作っていく動きが盛んですよね。「B&B」の場合は有料ですけど、たとえば企業が持っているスペースで毎日無料イベントをやれば、ある種リアル版のオウンドメディアになると考えています。「どういうゲストを呼んで、どんなテーマで話すか」で来るお客さんが異なってきますし、そのラインアップでブランディングをすることができます。「企業をどんなブランドにしていくか」「どんなお客さんに伝えていくか」というオウンドメディアを運営する目的と似ているなと。場所や形態は違いますが、共通するところはありますね。

編成と編集の違い

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伊藤 事前にイベント応募者から「『編成』と『編集』の違い」について教えてほしいという質問がありました。僕は、メディアを作るには「編成」と「編集」という2つの視点が必要と考えています。これらの違いは、編成は規律(ルール)がはっきりしているもの。たとえば、「この時間帯にこれを出す」など、あらかじめ決まったルールに沿って面(メディア)に組み込んでいくものだと思います。一方で、編集はふわふわとして自由なもので、毎回やることを決めていいものかなと。

内沼 Webメディアは編成で成り立っている部分が多いですよね。あと編成は“仕組み”がすでに出来上がっていて、そこにコンテンツを入れていく感じなのかなと。

伊藤 そうですね。メディアやサービスは、裏側に管理ツールのような仕組みがあることが多いです。そして、その仕組みの範囲内で動かすので、やはり規律があります。紙の編集で自由に動いていた人には少し窮屈かもしれませんね。ただ、仕組みはちょっとしたことでコミュニティーに動きをもたらすので面白いです。既に構築されている仕組みから、少し閾値を変えるとか、線の太さを変えるといったテストで動きに変化が出てきます。規律と管理ツールのような仕組みを楽しめる人は、編成に向いているかもしれませんね。

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2回にわたってお送りしたイベント「編む庭」のレポート、いかがだったでしょうか? 編集という仕事に、少しでも興味をもっていただけたらうれしいです。前編の様子は下記で紹介しています。あわせてご一読ください。

editor.hatenastaff.com


この「編む庭ブログ」では、今後も編集に関するコンテンツをお届けしていく予定です。次回更新をどうぞお楽しみに!