こんにちは、はてなの万井( id:ayakoya )です。私が担当した前回の記事では「はてな」という社名で苦労すると書きましたが、固有名詞に注意が必要なのは「はてな」だけではありません。
文章を書く、編集する、校正・校閲する。そのすべての工程で、「文章に登場する固有名詞と数値は本当に本当に本当に合っているか?」という自分への問いは常に必要です。しかし、人間はどうしてもミスをしてしまう生き物なのです……。
そこで! ついついやってしまいがちなミスの一つである「固有名詞間違いあるある」をご紹介したいと思います。「ああ、またやってしまった」と後悔しがちな自分の「あるある」のほか、他の編集スタッフから聞いた「あるある」もあります。
それでは、ジャンル別でどうぞ。
会社名・商品名
会社名の間違いは、全く言い訳ができない、致命的なミスです。しかし、現在の仮名遣いと一致していないケースも多くあり、「覚える」「気をつける」以外の解決策がありません。
- キャノン
- 正:キヤノン
- キューピー
- 正:キユーピー
- オンキョウ/オンキョー
- 正:オンキヨー
- 日本コロンビア
- 正:日本コロムビア
- 富士フィルム
- 正:富士フイルム
- 三和シャッター工業
- 正:三和シヤッター工業
- サーティーワンアイスクリーム
- 正:サーティワンアイスクリーム
- セブンイレブン
- 正:セブン-イレブン
- ビッグカメラ
- 正:ビックカメラ
- 東京ビックサイト
- 正:東京ビッグサイト
- ブルドッグソース
- 正:ブルドックソース
- プリングルス
- 正:プリングルズ
- CanCan/CamCan
- 正:CanCam
- 暮らしの手帳/暮しの手帳
- 正:暮しの手帖
- WOWWOW
- 正:WOWOW
- 青春18切符
- 正:青春18きっぷ
- 写るんです
- 正:写ルンです
- 三井住友銀行
- 英語表記が「英語表記:Sumitomo Mitsui Banking Corporation」・略称がSMBCで、「三井」「住友」の順が逆になっています
「間違いやすい社名だから気をつけなきゃ!」とは思いつつも、調べてみるとその会社の中で大きな意味を持っていたり、消費者・ユーザーに向けたメッセージが込められていたりします。
ということで、社名について解説されているページも集めてみました。ただ、犬の「ブルドッグ」にちなんでつけられた社名が「ブルドックソース」で、商品のロゴは「Bull-Dog」、会社サイトのドメインでは「bulldog」となると……これは孔明の罠だ……。
社名とサービス名を混同しがちなケース
- ウェザーニューズ(会社名)
- ウェザーニュース(サービス名)
- スカパーJSAT(会社名)
- スカパー!(サービス名)
社名とサービス名が微妙に異なっているときは、文脈によってきちんと使い分ける必要がある場合があります。また、サービス名が社名になる「商号変更」があった場合などは、とにかく調べるしかありません。
有名な例としては「NTTドコモ」をぱっと思い出します。「NTTドコモ」は2013年に商号変更された会社名で、それまでは通称として使われていました。ではその前の正式名称はというと「エヌ・ティ・ティ・ドコモ」。さらにその前は「エヌ・ティ・ティ移動通信網」でした。はてなで表記の指針としている「記者ハンドブック 新聞用字用語集」においては、第12版の「紛らわしい会社名」の中に「NTTドコモ」が含まれていましたが、2016年3月に出版された第13版では記載がなくなっています。
人名
人名の間違いも言い訳はできません。つい手癖で書いてしまった後で、「これは間違ってはいないだろうか」と見返すと、案外間違っていたりするものです。
- 森喜郎
- 正:森喜朗(もり よしろう)
- 管直人
- 正:菅直人(かん なおと)
- 管義偉
- 正:菅義偉(すが よしひで)
- 阿部晋三/安部晋三
- 正:安倍晋三(あべ しんぞう)
- 冨田靖子
- 正:富田靖子(とみた やすこ)
- 相川翔
- 正:哀川翔(あいかわ しょう)
- 藤岡弘
- 正:藤岡弘、(ふじおか ひろし)
- BOΦWY
- 正:BOOWY(ボウイ)
- つのだひろ
- 正:つのだ☆ひろ(つのだ ひろ)
技術用語
- javascript/Javascript/Java Script
- 正:JavaScript
- jquery
- 正:jQuery
- ElasticSearch/Elastic Search
- 正:Elasticsearch(かつては表記が統一されていなかったそうです)
- perl
- 正:Perl
- mRuby
- 正:mruby(Rubyの場合は、先頭の文字は大文字ですね)
アルファベットで複合語などを表記するときに、単語をスペースで区切らずに詰めてしまって、各単語の先頭の文字を大文字にする手法を「キャメルケース」といいます。プログラミングに関係する用語についてはキャメルケースが用いられていることが多いのではないかと思います。
技術用語の固有名詞をチェックする際には、紛らわしいものかどうかを見つける“勘”が必要だ、と感じることが多々あります。「英単語が連続しているもの」を見たらすぐさま「先頭は大文字か!」「くっついている単語の先頭は小文字で合っているか!」「実は半角スペースが必要なのではないか!!!」など、脳内でツッコミを入れながら必死に……本当に必死に調べています。
Webサービス・アプリ名
Webサービスやアプリの名称についても「キャメルケースなのかどうか」は正誤の判断材料として有効です。
- yahoo/yahoo!
- 正:Yahoo!
- youtube/Youtube
- 正:YouTube
- FaceBook/facebook
- 正:Facebook
- instagram
- 正:Instagram
- tumblr
- 正:Tumblr
- Tweetdeck/tweetdeck
- 正:TweetDeck
- Github/github
- 正:GitHub
- qiita/Oiita
- 正:Qiita
- Linkedin
- 正:LinkedIn
- Livedoor/Live door
- 正:livedoor
- ITMedia/IT Media
- 正:ITmedia(会社名はアイティメディア)
- pairs
- 正:Pairs(ロゴではすべて小文字)
- 人力検索サイトはてな/はてな人力検索
- 正:人力検索はてな
「人力検索サイトはてな」は、サービスを開始した2001年7月から2005年9月の改称まで使っていたサービス名でした。
アニメ・テレビ番組
テレビアニメ「けいおん!」の第1期は「!」が1つ、第2期は「!」が2つになって「けいおん!!」と表記されるのはおそらく有名だと思いますが、一般的に知られたアニメやテレビ番組でもうっかり間違えることはよくあります。
- 新世紀エヴァンゲリオン(TVアニメ版)
- ヱヴァンゲリヲン新劇場版(TVアニメ版のリメイクであるアニメ映画)
- 「エ」と「ヱ」、「オ」と「ヲ」をいつも意識しています
- ドラエもん/ドラエモン
- 正:ドラえもん
- 中居正広のブラックバラエティ
- 正:中井正広のブラックバラエティ
- ニュースウォッチ9
- 正:ニュースウオッチ9
地名・駅名・施設名
駅名などで使われている名前と行政区分における地名が一致していないのはもはや当然、疑って当たり前、というくらい、複雑です。
- 成田空港
- 正式名称は「成田国際空港」。2004年までは「新東京国際空港」でした
- 羽田空港
- 空港の正式名称は「東京国際空港」
- 東京都大田区の地名は「羽田空港」
- 山形空港
- 愛称は「おいしい山形空港」
- 庄内空港
- 愛称は「おいしい庄内空港」
- 富山空港
- 愛称は「富山きときと空港」
- 高知空港
- 愛称は「高知龍馬空港」
- 鳥取空港
- 愛称は「鳥取砂丘コナン空港」
- 佐賀空港
- 愛称は「九州佐賀国際空港」
- えのしま
- 江ノ島駅(江ノ島電鉄の駅名)
- 片瀬江ノ島駅(小田急電鉄の駅名)
- 湘南江の島駅(湘南モノレールの駅名)
- 新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市にある水族館名。前身は「江の島水族館」)
- 江の島(神奈川県藤沢市の地名)
- 江島神社(神奈川県藤沢市江の島にある神社名)
- あさがや
- 阿佐ケ谷駅(JRの駅名)
- 南阿佐ケ谷駅(東京メトロの駅名)
- 阿佐谷(東京都杉並区の地名)
毎日新聞・校閲グループのサイト「毎日ことば」では、阿佐ケ谷駅の駅名表示が統一されていないことに触れています。
食べ物
- 八つ橋/八ツ橋/八ッ橋/八橋
- 扱うお店・ブランド・商品によってかなりばらばらで、表記の確認にはかなり気合が必要です……
その他
このブログで以前取り上げた表記統一の話にもある通り、媒体によって「どこまで表記を統一するか」は異なります。独自のルールを定めている媒体もあります。
はてなで指針とする「記者ハンドブック」の中で、私が一番納得が行かなかったのは、「附属」という言葉は固有名詞であっても使わずに「付属」とするという項目でした。こうなっている理由はいろいろ込み入っているため、以下の記事をぜひご覧ください。
- 文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 第5期国語審議会 | 語形の「ゆれ」の問題
- 2010年「改定常用漢字表」対応 新聞用語集 追補版(PDF)
- なぜ新聞は「附属」でなく「付属」と書くのか | 毎日ことば
- Q02「附属」か「付属」か? - 教育出版
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一人で書き上げた文章には、たいていどこかしらに間違いがあるものです。自分自身でその間違いを完璧に見つけ出して修正するのは、そう簡単なことではありません。広く世に出す文章については、少し時間を取って誰かに読んでみてもらうと、ごく単純なミスが見つかったり、何度も確認したはずの文にまぎれ込んでいた間違いが一瞬で分かったりします。
(何重にもチェックをかけて作ったはずの文章に、ミスが残ったままになっており、後から見つかることもあるのですが……)
そうはいっても、最初の段階でできるだけミスのないように心掛けておくと、その後文章や記事を公開するまでの間の確認作業にかかる手間はぐっと減ります! さらに、自分が文章をチェックする側に回ったときに、「この辺に間違いがありそうだな」という当たりが付けられると、さらにミスを極力減らすことができます。
自分の次にはもう確認工程がない。つまり、自分の後ろにはもうこの記事のミスを見つけてくれる人がいない──その覚悟を記事を作り始める最初の段階で持っておくようにすると、執筆・編集・チェック・公開のどの段階を担当するようになっても、その胆力が生きてくるように思います。
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