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編集は「自動化」されていく仕事なのか 編集者のためのイベント「編む庭 」レポ【前編】

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2016年2月18日に、はてな東京オフィスで編集者のためのイベント「編む庭 -冬-」を開催しました。その様子の一部を2回に分けてレポートします。

今回は、高橋征義さん(株式会社達人出版会代表取締役/日本Rubyの会代表)と、毛利勝久(株式会社はてな シニアエディター/週刊はてなブログ編集長)による「対談 その1」の様子をお届けします。高橋さんはWebアプリケーションエンジニアを経て、2010年に技術書の電子書籍を制作・販売する「株式会社達人出版会」を設立。現在はその運営に携わっています。毛利は本(紙)の編集を経て、現在ははてなブログ週刊はてなブログなどの編集をしています。こういった経歴をたどり、編集の現場に関わっている2人が、編集者に求められる役割や、電子書籍における編集という仕事の在り方について話しました。

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情報を発信する手段がたくさんある中で、なぜ「電子書籍」なのか?

毛利 高橋さんは技術情報を「電子書籍」にまとめておられています。私は、かつては技術情報を「本」にまとめ、現在は「ブログ」という場所で技術情報を発信するための施策を考えています。本(紙)、電子書籍、ブログ……。このように情報を発信する手段は多様化してきています。

高橋さんは個人ブログも運営されていて、先日アップされた記事もはてなブックマークが伸びてホットエントリーに入っていましたよね。なので、おそらく「ブログが持つ発信力の可能性」は少なからず感じておられると思います。なのに、あえて「電子書籍」を選んだのはなぜですか?

高橋 Webは基本的に無料なため、どうやってマネタイズするかという課題がよく取り上げられます。そして、その解決策の一つとして広告モデルの話になることが多いです。

広告モデルは、読み手ではなく第三者(広告主)がお金を払うことでマネタイズしています。でも、そうすると読者と著者の関係がうまく成立しないように思ったんです。そんな時に電子書籍が出てきて、これなら読者が著者に直接お金を払うことでマネタイズできるなと。

毛利 電子書籍を作る上で感じる「紙との違い」などはありますか?

高橋 紙と大きく違うのは「更新できるか、できないか」です。売り方にもよりますが、電子書籍はユーザーと購入履歴がひも付いていることが一般的です。そのため、内容に訂正が発生したときに、ユーザー側でコンテンツを更新することができます。これはコストにも跳ね返ってきます。例えば誤字などのミスがあった場合も、電子書籍ならユーザーは“無料”で交換する(コンテンツを更新する)ことが可能です。

毛利 では、紙と比べて、電子書籍を作るときのメリットなどはありますか? 例えば、全てクラウド上で済ませることができるなど。

高橋 そのあたりは紙の編集も経験されている毛利さんの方がお詳しそうですね(笑)。はてなブログのようなブログの仕組みを利用して、原稿を作ることはないのですか?

毛利 ありますね。はてなのブロガーさんに寄稿していただくときは、下書きブログの編集メンバーにブロガーさんを招待しています。そうすると、ブロガーさんの管理画面にその下書きブログが表示されて、そのまま書いて入稿してもらうことができます。

高橋 なるほど。Webの媒体では、このようにクラウドを使ったパブリッシングの仕組みがどんどん利用されてきていますよね。ある程度のレベルまで進化すれば、紙の媒体も似た仕組みで出版できるのではないかと考えています。

自動化では対応しきれない編集者の役割

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高橋 本を作るときは「著者・編集者・読者」がいる状態が一般的です。しかし弊社が作っている電子書籍は、書籍の価格帯や部数などの事情から編集にコストをかけられないのが現状です。そのため、自動化できるところは対応していこうと。

弊社の電子書籍はITエンジニア向けということで、著者はエンジニアです。そこで、開発の現場でいつも使っている自動化の仕組みを、本を書くときにも生かそうとしています。ちょうど今、「Atom」というGitHubが提供するエディタを使って、「textlint」という校正ツールを試用しています。今試しているのは、ある特定の漢字に対して開く(ひらがな表記)/閉じる(漢字表記)というルールをあらかじめ決めておき、そのルールに反すると警告を出すといった機能です。

毛利 その校正ツールは、例えばサーバーに原稿を送った段階でチェックが走るという使い方もできるのでしょうか。

高橋 はい。そういう展開も可能だと思います。ただし、こういった校正ツールを整備しても、編集者がいなくなるというわけではありません。著者によって文章のクセはありますし、このパターンのときは許したい/許したくない表現とか、同じ本でも一つのルールに統一できないことってありますよね。やはり、こういった校正ツールでは、単純な用字用例ですら編集者のチェック能力にはかなわないのが実状です。ましてや意味レベルでのチェックはまだまだです。

ちょうど先日「たのしいRuby 第5版」という新刊を出したのですが、校正をSBクリエイティブの編集部の方にしてもらいました。その時の指摘がどれも的確で鋭かったです。そういった「編集者目線のチェック」を自動化するのは難しく、校正ツールはあくまでもサポートだなと思います。

なので、この校正ツールはどちらかというと著者が入稿するときの利用を考えています。誤りがあれば警告を出して、人を介さずに事前に見直してもらう感じです。そしてチェックが通った原稿だけがサーバーに残ると。

毛利 著者がセルフチェックで使うというわけですね。

高橋 そうですね。うまくいけば文字の校正にかけていた編集者のコストを、別のところに生かせるのではないかとも考えています。

毛利 (コンテンツを更新できる電子書籍においては)表記の統一がだいたいできていれば、読者はそこまでクオリティを求めていない気もします。

高橋 「求めていない」というよりも「許してくれるかな」という感じですね。理想的なのは、ある程度のクオリティに仕上がったところで読者に配布し、おかしいところがあれば出版社へ連絡をもらう。そして、訂正したものを読者にダウンロードしてもらうという形かもしれません。

毛利 それは出版社や紙の編集者ではなかなか出ない開発者的なアイデアですね。電子書籍ではそのようにβ版の段階でリリースして随時更新していくほうが、トータルコストがかからないということでしょうか。

高橋 はい。あとIT本というジャンルは、情報を必要とするタイミングという点で、速く出してほしいというニーズもあります。速さに重きを置くか、正確さに重きを置くか。もちろん最終的には正確な内容にならないとダメですが、読者からのフィードバック体制も整え、そこも含めてパブリッシングの仕組みがうまく作れるといいなと思っています。

毛利 編集リソースを読者にも割り振り、皆で本を作る―― これって先進的な感じがしますね。

高橋 将来的にはそうしたいですし、そのくらいにならないと電子書籍も発展しないのではないかと考えています。

編集者に求められることとは

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毛利 今回、イベント応募者からさまざまな質問が寄せられているので、最後に答えようと思います。えーっと「編集者になるにはどうすればいいのか?」……これは難しい問いですね。

高橋 そもそも、Webでコンテンツを作る人の間では「編集者」という呼ばれ方はあまりしない気がしますね。

毛利 たしかに、はてなに編集部があると言うと驚かれることがあります。

例えば、バイラルメディアが注目を浴びだしたころ、議論はマネタイズに関するものばかりで、「編集者」という言葉は浸透していませんでした。そのため「マネタイズ面を見るディレクターはいるけど、コンテンツを編集する人はいない」と、当時思ったことを覚えています。

やがて、何らかの“チェック”がきちんとなされていないと思われる記事も出回るようになり、そのあたりの弊害が出てきてしまったように思います。と、同時に、そのころから「コンテンツを見る人も必要である」という議論がなされるようになりました。

弊社もオウンドメディアの運営に携わっていますが、企業がメディアを立ち上げるときの目的は「ブランディング」です。そのためには、もちろんマネタイズは重要ですが、読み手を考えたコンテンツ作りも大切だと思います。そして、そこをきちんと見れる人こそが編集者であり、それが編集者に求められる役割なんじゃないかと考えています。

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いかがでしたが? 編集とはどういう仕事なのか、編集者の必要性はどこにあるのか……。現役の編集者による生の声が伝わる対談となりました。「対談 その2」の様子は、後編をご覧ください。